非上場株の評価が「跳ね上がる」仕組み
20数年ぶりの株高に、株式市場が沸いています。
為替の円安や低い金利については、立場によっては歓迎できない場合もありますが、株に関しては、それがありません。生活実感のない株高だ、株が買える金持ちだけが得をしているという批判はあったとしても、「株が高いのはけしからん」と思っている人はほとんどいないでしょう。
しかしこの株高によって、日本経済の抱える大きな課題に大きな影を落としていることはあまり知られていません。それが後継者不足に悩む中小企業オーナーの事業継承問題です。
いま、会社の経営を誰に引き継ぐかという「事業継承」の問題が、経済の世界で話題になっています。新聞や雑誌、ウェブニュースで記事を目にしない日はないと言ってもいいほどです。特に注目を集めているのが、後継者のいない中小企業が、別の会社に事業を引き継いでもらうというケースです。
事業承継問題を抱える中小企業のオーナーが会社を売却しようとした場合、買い手との価格交渉は、株式価値の理論値からスタートします。
非上場企業の理論値の計算方法にはいくつか方法がありますが、利益をベースに、今後出しうる利益に対して上場企業の利益の相関性から算定される「係数」を乗じて企業価値を算出し、そこから負債の金額などを考慮して株式の価値を算出するやり方が一般的です。
ところがこの係数が、近年の株式上昇相場が始まる前と現在とでは1.5倍どころか、将来性が少しでも見込まれた業界であれば2倍や3倍、場合によってはそれ以上の数値になっているのです。
跳ね上がった価格に惑わされ、遅れる「決断」
数年前なら5000万円だった株式価値が、同じ財務状態でも今は1億円や1億5000万円になっていることも珍しくない。オーナー自身でさえも「え、そんなに高いのか!?」と驚くほどですが、かといって「いやいや、うちは5000万円が妥当なところだよ」とは絶対になりません。
ましてや売却を仲介会社に頼んで、1億円以上での譲受を検討する会社が現れたりしたらなおのこと。「もっと探せば、1億1000万円でも買ってくれる会社が出てくるのではないか」と期待ばかりふくらみ、暇さえあれば売買交渉の面談に出向き、気がつけば、「業績は今後さらに上向きになる」というストーリーの説得力だけが増していくのです。
なかには、金額などは二の次で「少々時間をかけてでも、従業員が幸せになれるような買い手を探そう」と、純粋に社員のことを思っているオーナーもいないではないのですが、こちらも結果的には悠長に時間ばかり過ぎていくことに変わりありません。
一方で、買い手側のテンションは、株価の高騰並に高まっているわけではありません。上場株の短期売買とは異なり、企業の買収は、事業を育てて保有するのであり、その際に見るポイントは、あくまで会社自体の持っているポテンシャルで決まるからです。
本来は似て非なるスタンスなのですが、売り手がなかなかYesと言わないため、結果的になかなか合意に至らないのです。