「社会のゴミ」と言われたボクだからわかる『人生を変えるコツ』』(小川泰史著、KADOKAWA/中経出版)とは、ずいぶん過激なタイトルです。しかし実際のところ、過去の著者は本人のことばを借りるなら「ろくなものではなかった」のだといいます。

セールスをすれば成績はビリ、最悪な人間関係、上司に暴言を吐き、机を蹴飛ばし、3度の大きな交通事故を起こした挙句に会社内で騒動を起こしクビ。その後も、自殺未遂、借金、離婚と、人生で経験したくないことの多くを経験しました。(「はじめに」より)

だから、本やドラマに出てくるようなサクセスストーリーはすべて嘘で、小さな話を大きくしたり、大げさに話しているだけだと思っていたそうです。そんな話だけでも、当時の著者が負のスパイラルに巻き込まれていたことがわかります。そして、そのダメさ加減が、「社会のゴミ」とまで言われた由縁だというわけです。

ところがその後、さまざまな出会いを経るなかで這い上がっていき、2010年には本田技研工業のQCプレゼン大会で日本1位となり、世界大会にも出場。現在はコンサルタントとなり、コンサルティングと新人のプロデュースを手がけているのだというのですから、人生とはわからないもの。

つまり著者はそのような経験に基づき、絶望のふちから這い上がった人や、自分の価値に気づいて天職を見つけた人、夢を実現した人の実体験を交えながら「人生を変える」ためのメソッドを説いているというわけです。

きょうは「『借金、浮気、妊娠、中絶、詐欺、男運のない36歳、美人女性が自分の過去を塗り替える!』」と、これまたすごいタイトルのついた第2章で紹介されている、「自分を見つめる5つのステップ」を引き出してみます。ちなみにこのステップは、「自分はいったい何者で、自分にはどんな価値があるのか」と、自分自身にとってのライフワークのようなものを探しにくるクライアントに対して、著者が行なっている作業だそうです。

ステップ1 「過去」を洗い出す

著者は「人生を変えたい」と悩むクライアントに対して、まずは過去を洗い出してもらうのだそうです。クライアントの多くは自身の半生に対して「不幸のスパイラル」を習慣化させてしまったというな認識を抱いているため、当然のことながらこの時点で抵抗を示すことも少なくないのだとか。しかし、きっと誰にでもある「その苦しみや悲しみがあったからこそ、できるようになったこと、誰かの気持ちを理解して挙げられるようになったことは必ずあるはず」を思い出してもらうのだということ。

過去のつらい経験を本人はネガティブな感情でとらえているのですが、実は、人生の長い時間の経過と共に角度を変えてみると、結果としてプラスになることは多いのです。(118ページより)

だから、過去と現在の接点を見つける作業を行うという考え方。それはスキルや知識、考え方などさまざまですが、過去を聞くことによって、それを見つけていくわけです。その結果、ずっと気づかなかった大切なことに気づく人が多いのだといいます。(116ページより)

ステップ2 「感情フィルター」の色を変える

過去の体験というものは、感情という色のフィルターをかけて見ているだけのことが多いと著者。その経験が誰かの問題を解決したり、誰かの役に立ったとしても、本人はいつまでも苦い経験だと思い込んでいることも多いもの。しかし、事実に基づいた自分の過去と、いまの自分を結びつける作業をしたあと、「感情フィルター」の色が変わって、無理なプラス思考が根拠のあるプラス思考に変わるのだといいます。

自分自身が認識している以上に、人のために役立っていることがある。そして過去は、必ず現在につながっている。だからこそ、その結びつきに気づいたとき、それまでは暗かった「過去を見ていた色」に光が差し、そこから自分の価値に気づいていくことができるというわけです。(124ページより)

ステップ3 大切な「過去」がなにかを知る

過去を振り返ることは、つらい思い出に触れることでもあるはず。どんなに強い人間でも、心の奥を表に出す作業を行なう際には感情が揺れてしまいがち。思い出したくないことも、たくさんあるはずです。だから著者も、クライアントに過去を思い出させなくてはならないとき、気の利いたことばをかけられない自分にもどかしさを感じるといいます。しかし、時間をかけて過去を振り返ることは、「自分が決して不幸ではない」という思いへとつながっていくものだともいいます。そこで、時間をかけて過去を引き出すのだそうです。(131ページより)

ステップ4 「誰のどんな役に立てるのか?」を探る

クライアントに対して著者が次に求めるのは、自分の可能性を考え、自分にどのような価値があるのかに気づいてもらうことだそうです。なぜなら、自分が「誰のどんな役に立てる存在なのか」ということに気づいた人は、大きく変わっていくものだから。著者は何度も、そんな姿を目の当たりにしてきたといいます。

誰かの役に立つために必要なのは、誰かの共感を得ること。そして、仕事をするうえで重要なのはニーズ。世のなかには多くのニーズがあり、それを満たそうとすると多くの可能性が見えてくると著者は主張しています。そこで信頼や実積が生まれ、自分では思ってもいないようなところで、人の役に立ったりするということ。(133ページより)

ステップ5 「誰の、なんの役に立てる存在か?」を理解する

そして、自分が誰にとって、どんな役割を果たせる人間であるかを認識させる。そうすることよって、悩みから抜け出せないクライアントは活路を見出すことができるということです。(140ページより)

本書は典型的な自己啓発書であり、しかも大半は会話形式で話が進んでいきます。つまり読み手を限定する可能性があるため、ある意味においてはそこがネックだと言えるでしょう。しかしその一方に、共感をおぼえることができる人もいるはず。

ですから、人生に迷っている人、なにをやってもうまくいかないと感じている人は、ここからなにかを感じ取ることができるかもしれません。

(印南敦史)